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脳神経外科(手術)

手術を検討される方へ


 

脳神経外科手術は中枢神経系という「最重要組織」を対象とします.
当然ですが,手術だけで治癒する疾患は限られた少数のもので, 専門性の高い治療といえます.

私個人は四半世紀ほど脳神経外科医を続け,幾多の脳神経外科医(自称)と仕事をしてきました.
残念ながら,良質な手術を行う能力がある医師は非常に少ないというのが率直な感想です.

手術を検討される方は,私の専門外来を受診し,正確に理解して頂いた上で後悔のない選択をされることを願います.


名誉院長 坂本 真幸

JNR (Japan Neurosurgical Registry)

日本脳神経外科学会 手術症例登録事業の概要

一般社団法人National Clinical Database (NCD)の手術・治療情報データベース事業への参加について

当科は一般社団法人National Clinical Database(NCD)が実施するデータベース事業に参加しています.
この事業は日本全国の手術・治療情報を登録し集計・分析することで医療の質の向上に役立て,患者様に最善の医療を提供することを目指すプロジェクトです.
この法人における事業を通じて,患者様により適切な医療を提供するための医師の適正配置が検討できるだけでなく,当科が患者様に最善の医療を提供するための参考となる情報を得ることができます.
何卒趣旨をご理解の上,ご協力を賜りますよう宜しくお願い申し上げます.

1. NCDに登録する情報の内容

2015年1月1日以降,当科で行われた手術と治療に関する情報,手術や治療の効果やリスクを検証するための情報(年齢や身長、体重など)を登録します.
NCDに患者様のお名前を登録することはなく,氏名とは関係のないIDを用いて登録します.
IDと患者様を結びつける対応表は当科で厳重に管理し,NCDには提供しません.

2. 登録する情報の管理・結果の公表

登録する情報は,それ自体で患者様個⼈を容易に特定することはできないものですが,患者様に関わる重要な情報ですので厳重に管理いたします.
当科及びNCDでは登録する情報の管理にあたって,情報の取り扱いや安全管理に関する法令や取り決め(「個人情報保護法」「疫学研究の倫理指針」「臨床研究の倫理指針」「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」等)を遵守しています.
データの公表にあたっては,NCDが承認した情報のみが集計データとして公表されます.登録するデータがどなたのものであるか特定されることはありません.

3. 登録の拒否や登録情報の確認

データを登録されたくない場合は,登録を拒否して頂くことができます.当科のスタッフにお伝えください.
また,登録されたご自身のデータの閲覧や削除を希望される場合も,当科のスタッフにお知らせください.
なお,登録を拒否されたり,閲覧・修正を希望されたりすることで,日常の診療等において患者さんが不利益を被ることは一切ございません.

4. NCD担当者の訪問による登録データ確認への協力

当科からNCDへ登録した情報が正しいかどうかを確認するため,NCDの担当者が患者様のカルテや診療記録を閲覧することがあります.
当科がこの調査に協力する際は,NCDの担当者と守秘義務に関する取り決めを結び、患者様とIDの対応表や氏名など患者様を特定する情報を院外へ持ち出したり、口外したりすることは禁じます.
本事業への参加に関してご質問がある場合は,当科のスタッフにお伝えください.
また,より詳細な情報は下記に掲載されていますので,そちらもご覧ください.

一般社団法人National Clinical Database(NCD)ホームページ:URL: http://www.ncd.or.jp/ >>


Less Invasive

解剖学的複雑性・機能的重要性に対する
低侵襲性という相反するハードルを上げ続けています

Less Invasive Surgery

手術を行うにあたっては,解剖学的な複雑性・機能的な重要性に対しての安全性を確保しつつ,可能な限り患者様の負担が少なくなるような 「低侵襲手術」を行うよう努力しています.


低侵襲手術

低侵襲手術の最初の努力は,手術にともなう傷を極力小さくすることです.
手術にともなう傷を小さくすると,露出範囲が限られますから,手術に必要な操作空間も小さくなります.
一般的に操作空間が小さくなるに従い,操作の自由度が下がりますから,安全・正確な手術操作は困難になります.


頭蓋底手術

操作空間が小さくなることにともなう,操作性・安全性の低下を補うために,頭蓋底手術手技を効果的に組み合わせています.

頭蓋底手術とは頭蓋底正中線近傍に発生する病変(髄膜腫・神経鞘腫など)に対し,眼窩・蝶形骨・錐体骨・斜台などの頭蓋底面を構成する骨を削除することで操作空間を拡大し,安全な手術を可能にするという,脳神経外科手術手技上の概念です.

一般的には頭蓋底骨削除のために,大きな皮膚切開と眼窩縁・頬骨・乳様突起外板などの切離を要する,拡大術式を指すことが多く,低侵襲手術の対極のような印象を受けてしまいますが,上述のごとく安全性の確保を目的に術野を拡大するという考えは,根底では低侵襲手術のコンセプトと相容れるものなのです.

私は頭蓋底手術手技を改良し,皮膚切開は小さいままで,不必要な骨切りも行わず,操作性の向上と安全性の確保のために寄与すると考えられる,最小限の頭蓋底骨削除に努めています.


Planning

「手術」を客観的に表現すると,
「疾患の治療のため,身体に傷をつけていく,一連の操作手順ならびに操作」
に過ぎません.

安全・正確な手術を遂行するためには,

1. 無理なく遂行可能な最小の操作空間を,最もスマートに展開するための 手術計画を立て
2. 手術計画どおり正確に 遂行するだけです.

良好な手術成績を維持するため,上記2点を徹底しています.

... and Performe as Planned

Keyhole Surgery

クリッピング術の低侵襲化

代表的な「低侵襲手術」として,くも膜下出血の原因となる「脳動脈瘤」に対する「クリッピング術」があります.

脳動脈瘤はWillis動脈輪と呼ばれる,こめかみの奥5cmほどの部位にある脳主幹動脈の分岐部に形成されます.

従来の方法では,前側頭部の毛髪を剃り,耳介前方から額の正中線上にかけての約15~20cmの弧状の長い皮膚切開をおき,前側頭部の頭蓋骨を直径10cmほど切り取って得られた操作空間を使って手術を行っていました.

私はある時期に,従来の方法は手術操作に不必要な脳の露出が多いことに気づきました.


手術操作に真に必要な,前頭葉と側頭葉の間隙を形成するSylvius裂を必要充分に露出させれば事足りるのであり,大きな開頭を行っても前頭葉を無駄に露出させるだけなのです.


手術操作に最も有効な操作空間は,こめかみの真裏で眼窩の外縁から後縁に沿った3×2.5cm径(500円玉大)の長楕円形の領域で,sylvius裂の終端部に相当する部位です.


従来の長い皮膚切開と大きな開頭を行っても,この部位はむしろ露出できていないことが多いのです.

当たり前の様に行っていた従来の方法を捨て去り,皮膚切開をこめかみの部位の毛髪線ぎりぎりに行うこと,皮下で側頭筋膜を適切に処理すること,頭蓋底骨削除を徹底することで,4cmの皮膚切開で先ほどの領域に500円玉大の小開頭を行い,同じ内容の(というか遙かに繊細な)手術が可能になりました.


皮膚切開は従来の1/4の長さ,開頭の範囲は1/10の面積です.

傷や開頭が小さいですから術後の痛みをはじめとする患者様の負担が大幅に軽減しました.


Refining

「拡大術式」や「難易度が高い」と思われる手術も,
客観的にみれば「一連の操作手順ならびに操作」のひとつに過ぎません.

より低侵襲な手術を目指し,術式を改良するにあたっても,

「無理なく遂行可能な最小の操作空間を,最もスマートに展開する」

コンセプトは変わりません.

... and Refurbish

Less Invasive Skullbase Surgery

頭蓋底手術の低侵襲化

「脳動脈瘤」に対する「クリッピング術」の中でも内頚動脈が頭蓋内に入って直ぐの部位(C3部・傍前床突起部)に形成されるものは,内頚動脈と視神経を隔てる頭蓋底の骨の隆起である「前床突起」の削除,内頚動脈を頭蓋底で固定する硬膜である「硬膜輪」の切開を行い,操作空間を拡大しないと安全にクリップを挿入することができません.

従来の方法では,前側頭部の毛髪を剃り,耳介前方から額の正中線上にかけて,前述の従来法の前頭側頭開頭の皮膚切開をさらに前後5cmほど延長します(全長20-25cm).
直径10cmほどの前頭側頭開頭に加え,眼窩(:Orbit)縁・眼窩上壁と頬骨(:Zygoma)を切り取って得られた操作空間を使って,前床突起や硬膜輪などの,動脈瘤を遮る構造物を処理することでようやくクリッピングの操作が安全に行えるようになります(Orbito-Zygomatic Approach).
拡大術式としての頭蓋底手術の最も典型的なものです.

私はクリッピング術を前のセクションで述べたような500円玉大の小開頭で行うようになってから,Orbito-Zygomatic Approachも無駄な操作が多いと思うようになりました.

いくら皮膚切開を長くしても,無駄に開頭が大きくなるだけで,前頭葉・側頭葉を無駄に露出させたり,不必要に頬骨を切離しているにすぎません.

通常の動脈瘤と違う点は,こめかみのずっと奥に存在する前床突起を安全に削るために必要な,最小限の操作空間の確保にあります.

前のセクションでも述べたように通常の動脈瘤の処理に必要な,眼窩の外縁から後縁に沿った3×2.5cm径(500円玉大)の長楕円形の領域に加え,ビデオで私の左手が操作する手術器械が眼窩の上外側壁方向から挿入されているのが分かると思いますが,この左手の自由な動作は,眼窩の上外側縁をわずか2cmほど切り取ることで可能になります.

整容面を考え,500円玉大の小開頭と眼窩の縁の2cmの小さな骨片は一塊として切離しますが,この一塊切離を小さな皮膚切開で行うには,開頭の時に頭蓋側に開けた小孔(Burrhole)越しに前頭蓋底(つまり眼窩上壁)を処理することで可能になります.

7cmの皮膚切開で先ほどの領域に500円玉大の小開頭と2cmの眼窩縁の一塊切離を行い,同じ内容の(というか遙かに繊細な)手術が可能になりました.

拡大術式であることや難易度が高いことを理由に,皮膚切開が長かったり・無駄に開頭が大きかったり,無駄に骨を切離するといった,侵襲が高くなることを正当化すべきではありません.


Invasive as it Is, Strive to Minimize

最適化への飽くなき努力

Less Invasive, More Precise

さらなる低侵襲化・高精細化に向けて

上述の例に代表される低侵襲手術に対して,近年の画像診断技術の発達が果たした役割は大きいです.
従来の画像は5mm間隔の2次元平面画像ですが,撮像装置の高性能化・PCの処理能力の向上により,0.25mm間隔の画像をワークステーションで3次元に再構成し,手術のシミュレーションが可能になっています.
また,種類の異なる画像(MRIと3DCTAなど)を融合させて,実像に迫る3次元画像が得られるようになっています.

病変の質的診断に最も有用なのはMRIです.磁場の種類を変えることでコントラストの違う画像が無数に得られますので,目的とする病変を最も良く抽出するような種類の磁場(シーケンス)を選んで診断を突き詰めます.
形態情報を得るための従来のシーケンスだけでなく,
・病変の物質組成を調べるMRS
・組織の異方性を調べるテンソル画像 
・テンソル画像を利用し神経線維の走行を描出するトラクトグラフィー
・脳の特定の部位を遂行課題で賦活化させ,活動部位を同定するためのfMRI
などを利用して,様々な側面から病変の情報を抽出します.

このように,MRIだけに限っても得られる情報は多岐にわたり,個々の情報量もコンピューターを介さないと処理できないほど膨大なレベルになっています.
当然「最重要組織」を扱うのですから,あらゆる側面から情報を得て,診断・治療に利用するのは言うまでもありません.これからも,画像診断をはじめとする診断技術の進歩にcatch upしつつ,診療レベルの向上につとめていきたいと思います.

名誉院長 坂本 真幸